――Glycine Clinicが考える、鼻先の支持と自然さのバランス
鼻先をもう少し高くしたい。上向きの鼻を整えたい。けれど、鼻が目立ちすぎたり、硬くなったりするのは避けたい。
鼻の手術を考えるとき、こうした希望は同時に存在します。私は、鼻先の位置だけでなく、顔全体へのなじみ方や、手術後の触れた感覚まで含めて術式を選ぶことが大切だと考えています。
鼻中隔延長術は、鼻先の位置や向きを調整するための選択肢です。ただし、わずかな変化を望む方にも、同じように必要になるわけではありません。
まず考えるのは、鼻先を「どの方向へ、どれだけ」動かすか
鼻中隔延長術では、左右の鼻の穴を隔てる鼻中隔に軟骨を固定し、それを支えとして鼻先の位置を調整します。この移植軟骨を、septal extension graft、略してSEGと呼びます。
当院では、術前より鼻先を前方へ2mm以上突出させたい場合や、前方への突出に加えて尾側、つまり鼻先を下方へ移す必要がある場合に、SEGを検討します。
これは「2mm以上なら必ず鼻中隔延長術」という意味ではありません。2mmは、私が術式を考える際の一つの目安です。実際には、もともとの軟骨の強さ、皮膚の厚みや伸びやすさ、鼻先の向き、手術歴などを合わせて判断します。
同じ2mmでも、鼻先を前へ出す場合と、下方へも動かす場合では、必要な支え方が異なります。変化の大きさと方向を分けて考えることが、術式選択の出発点です。
軽度の変化なら、別の方法も検討する
鼻先の変化が軽度で、もともとの支持構造を生かせる場合には、columellar strutや耳介軟骨のonlay移植を検討します。
Columellar strutは、左右の鼻の穴の間にある「鼻柱」の内部で、鼻先を支える軟骨を補強する方法です。耳介軟骨のonlay移植は、耳から採取した軟骨を鼻先に重ね、輪郭や突出を調整する方法です。アジア人の鼻尖形成を扱った症例研究でも、onlay移植、strut、SEGを用いた複数の方法が報告されています。文献1
ただし、鼻先に軟骨を重ねて高さを加えることと、鼻先そのものの位置を移して支えることは、役割が異なります。
軽度の調整であれば十分な方法でも、下方への移動や、支持の弱い鼻先を大きく突出させる目的には適さないことがあります。反対に、小さな変化のために必要以上に強い支持を加えれば、得られる変化に対して固定感が負担になる可能性があります。
私は、希望する形に必要な支持を見極め、その方に合う方法を選びたいと考えています。
目指したいのは、顔になじむ「忘れ鼻」
私が大切にしているのは、鼻だけに視線が集まる形ではなく、その方の顔に自然になじむ形です。ここでは、それを「忘れ鼻」と表現しています。
「忘れ鼻」は医学的な術式名でも、決まった寸法でもありません。目元や口元、輪郭と調和し、鼻の形を過度に意識せずに過ごせることを目指す、私の美的な考え方です。
鼻先を高くすれば、必ず顔全体の印象がよくなるとは限りません。横顔で整って見えても、正面では鼻先が強く見えたり、鼻柱と小鼻の関係が不自然になったりすることがあります。
そのため、横顔の高さだけでなく、正面、斜め、下から見た鼻孔の形、笑ったときの印象まで確認します。変化を加える量と同じくらい、元の特徴をどこまで残すかを大切にしています。
支持の安定性と柔軟性には、トレードオフがある
SEGを選ぶうえで、鼻先の位置を保つ力は重要です。一方で、強い支持を得ることと、鼻先の柔らかさを保つことは、常に同じ方向に進むわけではありません。
60人を対象とした前向き無作為化比較研究では、SEGはcolumellar strutより鼻先の突出と角度を保ちやすかった一方、前後方向の柔軟性は低い結果でした。ただし、長期の左右方向の柔軟性には差が認められませんでした。文献2
別の初回鼻形成術の後ろ向き比較研究でも、SEG群では術後の突出や角度の変化が小さいと報告されています。文献3
これらの結果は、SEGの支持力を考える参考になります。ただし、術式の細部や軟骨の性状は症例によって異なり、すべての方の経過を予測できるものではありません。
当院では、形を保つために必要な支持と、患者さんが受け入れられる硬さ・固定感のバランスを、術前に共有することを重視しています。
「後戻りを見込むこと」と「過矯正」は分けて考える
術後には腫れが引き、組織がなじむことで、鼻先の見え方や位置が変化します。前述の比較研究でも、SEGとstrutのどちらにも術後の突出・角度の変化が認められています。文献2
ただし、その変化を見込むことと、最初から大きく高く、長く作ることは別です。どの程度変化するかには個人差があり、予測以上の高さや長さが残れば、希望とのずれにつながります。
私は、過矯正を前提にするのではなく、皮膚や軟部組織にかかる負担を評価し、無理のない位置に必要な支持を設けることを基本にしています。希望する変化と組織の条件が合わない場合には、変化量を控える選択も含めて相談します。
修正手術まで考えて、最初の手術を設計する
初回手術では、将来の修正の可能性も意識する必要があります。
修正手術では、組織の癒着や、以前の手術による支持構造の変化、採取できる軟骨の不足が問題になることがあります。修正鼻形成術に関する報告でも、こうした条件が手術を難しくする要因として挙げられています。文献4
そのため、初回から必要な支持を確保しつつ、使う軟骨の量や残す構造にも配慮します。
また、修正で「硬さを減らしたい」と希望されても、移植軟骨を取り除くだけで解決できるとは限りません。当院では、その軟骨がどの部分を支えているかを確認し、形と支持をどう保つかまで含めて検討します。
術式名より、その方に必要な変化を大切に
鼻中隔延長術を選ぶかどうかは、術式名だけで決めるものではありません。
どの方向に、どれだけ動かしたいのか。その変化を支えるために何が必要か。柔軟性をどこまで重視するか。そして、顔全体にどうなじませるか。
Glycine Clinicでは、この順序で鼻先の手術を考えます。必要なときにはSEGを検討し、軽度の調整ではstrutや耳介軟骨onlayなどの選択肢を検討する。それぞれの利点と限界を共有しながら、その方に合った計画を立てたいと考えています。
鼻の手術には、腫れ、内出血、感染、左右差、移植軟骨の変形・輪郭の透見、硬さ、鼻閉などのリスクがあり、軟骨採取部にも傷あとや変形が生じる可能性があります。仕上がりや経過には個人差があり、修正手術が必要になる場合もあります。診察では、期待できる変化とともに、選ぶ方法の限界や負担についても説明します。
参考文献
Jin HR, Won TB. Nasal tip augmentation in Asians using autogenous cartilage. Otolaryngol Head Neck Surg. 2009;140(4):526–530. doi:10.1016/j.otohns.2008.12.025.
Kucukguven A, Çelik M, Altunal SK, Kocer U. Nasal Tip Flexibility and Stability: Comparison of Septal Extension Grafts and Columellar Strut Grafts in a Prospective Trial. Plast Reconstr Surg. 2024;154(2):313–322. doi:10.1097/PRS.0000000000011132.
Bellamy JL, Rohrich RJ. Superiority of the Septal Extension Graft over the Columellar Strut Graft in Primary Rhinoplasty: Improved Long-Term Tip Stability. Plast Reconstr Surg. 2023;152(2):332–339. doi:10.1097/PRS.0000000000010147.
Romo T 3rd, Sonne J, Choe KS, Sclafani AP. Revision rhinoplasty. Facial Plast Surg. 2003;19(4):299–307. doi:10.1055/s-2004-815649.
※引用研究は術式の特徴を説明するための参考資料であり、当院の治療成績や個々の患者さんの結果を示すものではありません。「2mm」という目安と「忘れ鼻」は、本稿における院長の診療方針・美的な考え方を示しています。